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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)577号 判決 1966年6月10日

上告人

大和運輸株式会社

右代表者

岡本繁信

被上告人

若林ヒサ子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人代表者岡本繁信の上告理由について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠により肯定できる。而して、原判決認定の事実関係の下においては、運転手村松博による判示自動車事故による被上告人の本件損害につき上告会社に対し民法七一五条の法理に従い賠償責任を肯定した原判決は正当である。所論は、原審が適法に確定した右事実関係に沿わない事実を前提として原判決を非難するものであるから採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

【原審・札幌高裁昭和二四年(ネ)第三七五号、昭和三八年一二月二八日判決理由抄】

控訴人が自動車運送及びこれに附帯する事業を目的とする会社であることは当事者間に争のないところ、被控訴人は、訴外村松博が昭和三一年六月頃、控訴人に雇われ、本件事故は控訴人の事業の執行中に生じたものであるから控訴人は民法第七一五条により村松博が被控訴人に加えた損害を賠償すべき義務があると主張するので、先ず村松博が控訴会社に雇われていたかどうかにつき判断するに、前記甲第二号証、第三号証、第五号証、第七号証及び第九号証中には、なるほど被控訴人主張に沿う趣旨の記載があるけれども、右はいずれも伝聞したことがらに過ぎないのであつて、後掲各証拠と対比するとそのままこれを信用し難く、その他右事実を認めるに足りる確証はないので村松博が控訴会社と雇傭関係があることを前提とする被控訴人の右主張は採用できない。

被控訴人は仮りに訴外村松博と控訴会社との間に雇備関係がなく、村松は訴外本村憲二に雇われていたものとしても、本村は事実上控訴会社の指揮監督を受けていたものであり、仮りにそうでないとしても控訴人は本村に対し自動車運送業者として控訴会社の名義の使用を許可していたものであるから本村の被用者である村松の不法行為につき控訴人は民法第七一五条により責を負うべきであると主張するので判断する。成立に争いのない甲第一八号証同第二〇、二一号証乙第三、四号証原審並びに当審証人阿部松男同本村憲二原審証人平畑由松の各証言を綜合すると、控訴会社は免許を得て自動車運送事業を営むもので小樽市住の江町に小樽営業所を設けているが、右小樽営業所の実体は各自貨物自動車を所有しているが運送事業の免許を受けていない訴外阿部松男外数名が寄合つて控訴会社の営業名義の貸与を受け、控訴会社小樽営業所なる名称の事務所を使用し、その営業所長には控訴会社の取締役たる阿部松男がなり、各所有の自動車は登録自動車損害賠償責任保険等の関係においては、控訴会社所有として届出で、運送の受註、自動車部品の購入等外部に対する関係においては総べて右営業所名義をもつて取引し、控訴会社に対しては自動車一台につき一ケ月金五、〇〇〇円の割合による名義料を支払い、その余は各自の収益とする組織のものであつたこと、そして運転手、助手は右営業所において採用するが各自動車の所有者に配属し給料等は右所有者が支給し直接その指揮監督をしていたこと及び訴外本村憲二も右組織の一員であつて本件事故を起した貨物自動車は本村の所有に属し村松博は右自動車の運転手として本村に配属されていたもので、本件事故当日従事した砂運搬の事業は前示小樽営業所が石山中学校の工事請負人である訴外阿部建設株式会社の注文により行つた資材運搬の一環として行われたものであることが認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

およそ自動車運送営業は現行制度上一定の基準に達しなければ免許を得られないものであるから、その免許を受けた営業者が無免許者に対して自己の商号使用を許諾した場合には、名義貸与自体が違法性を帯びるとともに右許諾者は自動車事故の発生を未然に防止するよう指揮監督すべき責務を負うべき筋合とみるべきであつて、名義貸与者とこれを使用する者との間には、事実上指揮監督の関係があつたか否かを問うまでもなく、使用者としての指揮監督をなすべき義務を負うものと解するのが相当である。そうだとすると、前認定のように訴外村松博の使用者たる訴外本村憲二に対して「大和運輸株式会社小樽営業所」なる商号の使用を許諾した控訴人は、訴外本村憲二に対してのみならず訴外村松博に対しても使用者たるべき地位に立ち、これらの者を指揮監督すべき責務を負うものであつたというべきことは前説示に照し明らかであるから訴外村松博のなした前示不法行為に因り被控訴人が受けた損害につき、民法第七一五条の法理に従い、使用者として賠償の責任を負うものというべきである。

控訴人は仮りに控訴人に損害賠償義務があるとするも、その後示談解決したのであるから被控訴人の損害賠償請求権は消滅したと主張するので、判断するに、成立に争いのない甲第二一号証、乙第八号証、原審証人本村憲二、佐藤清治、当審証人本村憲二及び佐藤清治の各証言を総合すると、本件事故発生後、訴外本村憲二が被控訴人に対して治療費金二万五千円及び見舞金五千円を支払つた外、控訴人主張の保険金十万円を譲渡した事実を認めうるが、しかし、被控訴人が右以外の請求権を行使しない旨を約したとの事実はこれを認めるに足る証拠がないから、右抗弁はこれを採用することができない。<以下―略>

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